産まれた子供は、障がいを持っていました。

「お子さんに奇形が見られます。」わが子が産まれて、先生から始めて言われた言葉に頭は真っ白になりました。

36時間の悲鳴が頭の中を駆け巡る。

f:id:sami-imi-imas:20190605155915j:plain

陣痛~出産までの話。

 

予定日から1週間が過ぎていた。

 

嫁は初産のため、どの痛みが本陣痛なのかも分からない。

8日目に嫁は入院することとなった。

 

「大丈夫だよ」

 

そんな根拠も無い言葉をいくつか並べて嫁を安心しようとさせるが、

内心はタジタジ。

 

全てを見透かすかのような顔で嫁は笑っていた。

 

そして、陣痛誘発剤の使用が開始された。

 

陣痛誘発剤に苦しむ嫁

仕事を早めに切り上げ、病院に向う僕。

仕事中も気になって度々LINEを送った。そして2分おきくらいに携帯を気にしていた。

 

嫁はいつも明るくLINEを返してくれていた。

 

病院につくと、LINEで受けた印象とはかけ離れた嫁の姿。

 

調べてみると、陣痛誘発剤は通常陣痛よりも痛いらしい。

 

心配をかけないようにと明るくLINEを返してくれていたのだろうが、本人はかなり痛みと戦っていたのだろう。

 

そんな痛みとは裏腹に、本陣痛はまだ来ない。

お医者さんは嫁と僕に言い放つ。

 

帝王切開を視野に入れます。」

 

お医者さんからの言葉に、嫁の顔はあきらかに歪んでいた。

 

自然分娩に拘る嫁と現実

妊娠中、帝王切開の脊髄注射に対して異常なほど拒否反応を示していた嫁。

理由は恐怖心からということであったが、それも立派な理由だと思う。

 

帝王切開の場合、脊髄注射を行うのだが一歩間違うと死んでしまう可能性があるとお医者さんから説明があるからだ。

 

帝王切開という言葉を聞いて焦る嫁。

気付けば12時間経っていた。

 

ただただ、誘発されている人工的な陣痛に苦しんでいる。

数十分おきにくる陣痛のたびに、嫁の表情は曇る。

 

先生は、たまに病室を訪れては

 

「まだかかるね」

 

という言葉だけを残して去っていく。

 

嫁にもう笑顔を作る余裕は無かった。

 

決断を迫られる

陣痛が始まってどれくらいだったか・・・。

おそらく30時間くらいだったと思う。

 

嫁の体力が限界なので、無痛分娩に切り替えてはどうか、との提案を受ける。

 

無痛分娩も脊髄注射が必要となる。

しかし、嫁は冷静な判断ができない状態だったため、先生は僕に承諾を求めた。

 

嫁が望む自然分娩で強行するか、嫁が拒否していた脊髄注射の無痛分娩にするか。

 

僕は、無痛分娩を選択することにした。

 

それは、嫁のためなのか、僕のためなのか。

今となっては覚えていないが、一刻も早く苦しむ嫁を開放してあげたい一心だったと思う。

 

脊髄注射は簡単に打てるものでもなければ、厳重な注意が必要である。

その為、僕と嫁の母は部屋を出された。

 

ここからが地獄。

 

扉越しに嫁の叫び声が聞こえる。

 

何度も、何度も。僕は耳を塞ぐことなく扉の前でうつむいていた。

 

出産ってどこもこんな感じなのかな。
だとしたら本当にどこの家族も、奇跡だと思った。

 

2回目の決断を迫られる

 脊髄注射を無事終えた嫁の目は赤かった。

相当痛かったのだろう。がんばったね。

 

少し痛みが和らいだのか、嫁の顔にも少し笑顔が戻った。

 

効果はたったの2時間。

 

あんなに痛い想いをして、痛みが和らいだ時間はたった2時間だけだった。

嫁はまた、陣痛のたびに身体をくねらせ、陣痛の痛みを示す数値は常にMAX値を超えていた。

 

そして、先生は僕に話しかける。

 

「36時間ほど経ちました。赤ちゃんの心拍も低下してきています。帝王切開で出産しましょう。」

 

今までの苦労は何だったんだ。

僕はそんなことを考えた。

 

この陣痛に意味が無かったとは思わない。

でも結局はここまで痛みに耐える必要があったのか。

早く僕から提案してあげれば、嫁はここまで苦しむことはなかったのに。

 

そんなことを考えていると、 

嫁は冷静に声をかけてきた。

 

「赤ちゃん苦しんでるかもしれない。早く出してあげてほしい」

 

そう言った顔は力強く、一年経った今でも忘れない。

もうすでに母の顔になっていた。

 

そして、無事子供は帝王切開で生まれた。

へその緒が短かったのが原因だったかもしれないとのことだった。

 

後から聞いたのだが、嫁は生まれた瞬間に、タオルに包まれたわが子の顔を

チラッとだけ見せてもらい、直ぐに引き離された。

 

その理由のブログは次のブログに記載します。

 

振り返ってみて

自分が生まれてから今までで一番精神的にしんどいと言っても過言ではないくらいの時間でした。

泣き叫ぶ嫁に対して、ただ手を握ってあげることしかできない無力感。

さらに、脊髄注射なんて外に出されて叫び声だけしか聞こえないとかね、まさに地獄。

このまま嫁は死んでしまうのではないか?と思ったほど。

 

何度耳を塞ぎたくなったことか。

それでも嫁の頑張っている声を聞こうと扉の前で耐えていましたが、もうほんと辛かった。

女の人は、子供が生まれると痛かったことなんて忘れるというそうですが、旦那は違いますよね。

一年経った今でもあの時の嫁の辛い顔が忘れられません。

 

今の幸せは、あの時の嫁のおかげでもあるので、旦那としては感謝の気持ちでいっぱいです。